五九七 うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも
五九八 朝霧のおほに相見し人ゆゑに命死ぬべく恋ひわたるかも
六〇〇 伊勢の海も磯もとどろに寄する波恐き人に恋ひわたるかも
六〇一 情ゆも吾は思はざりき山河も隔たらなくにかく恋ひむとは
六〇二 夕さればもの思ひ益る見し人の言問ふ姿面影にして
六〇六 われも思ふ人もな忘れおほなわに浦吹く風の止む時なかれ
六〇八 相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後に額づくがごと